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くらげ男の日々

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05/17/20:31  イマイ君

3時限目の体育の時間、グランドをランニングしていると、イマイ君が遅刻してやってきた。
 
今日も二日酔いらしい。
青い顔をしてワタシと並んで走りながら、しきりと首をかしげている。

「どうしたの?」
「いやー、どうも昨日、オジーちゃんが死んだみたいなんですよね~」
 
昨日の深夜、泥酔していたイマイ君のもとにオジーちゃんが死んだという電話があったということを、学校について急いで体操着に着替えている途中に思い出したという。

「アノ電話、夢だったのか、ほんとにあったことなのか、ハッキリしないんスよねー」
 
昼休みに電話をし、ほんとにオジーちゃんがなくなったことを確認すると、イマイ君は急いで家に帰っていき、翌日から1週間、学校を休んだ。(1週間後学校に出てきたとき、担任の先生から“忌引きは3日までで、あとは欠席あつかいになるぞ、オマエこのままだと出席日数足りないから留年になるよ”といわれ、まっ青になっていた・・)
 
イマイ君は高3にしてみごとなビール腹をし、なぎら健壱にそっくりな顔としゃべり方をする、フォークとブルーグラスが大好きだという、オヤジくさい高校生だ。
 
「ウチ、足立区でバッタ屋やってるじゃないですか~、だからボク、家を出てひとり暮らししなきゃいけないんスよね~」
 
バッタ屋がどういう職業なのか、どうして親がバッタ屋だとイマイ君がひとり暮らしをしなければならないのかは知らない。

とにかくイマイ君はひとり暮らしをしながら、いつも飲んだくれていた。
 
当時、ワタシも明大前にひとり暮らしをしていて、毎晩のように飲みに行っていたが、それは酒がおいしいと思っていたからではなかった。
 
イマイ君は違う。
生まれつき酒と肌が合うらしく、毎晩のように酒を飲んではフォークソングを聴いていた。
 
そんなイマイ君は目白駅のそばにあった居酒屋のオヤジさんを尊敬していた。

「すごいんスよ、オヤッさん。酒しか飲まないんスから。ゴハンはおろか、つまみにも手をつけたところなんて見たことないんスよね~」
 
「オヤジさんの話、泣けるんですよね~」

そう言いながら、オヤッさんが語った“泣ける”人生訓を目をキラキラさせながらワタシに披露するのだが、まるで興味がなかったのでどんな話だったのか覚えていない。
 
どうやら、高校生にして酒が好きで好きでやめられなくなっていたイマイ君にとって、オヤッさんの存在は
“酒しか口にしなくたってダイジョウブ、ちゃんと生きていける”
という、これ以上ない慰めとなっていたようだった。
 
あるときイマイ君はとても嬉しそうにワタシに報告してきた。

「オヤッさんによると、酒って、完全栄養食品なんだそうスよ。ちゃんと人間が生きていくのに必要なビタミンやミネラルも含まれているんだって。だからオヤッさん、ゴハン食べないけど、かぜひとつひかないで元気なんですねー」

ボクなんてまだまだっスよ、どうしてもつまみに手がのびてしまうんスから。カッコイイんスよねー、つまみなしで酒を飲むヒトって。
ボクもオトナになったらああなりたいんスよね!
 
・・・その年の12月、オヤッさんが亡くなった。
このごろ、いつ行ってもお店が閉まっているので変だなあと思っていたイマイ君に、近所のお店のひとが、オヤジさん、ポックリ逝ってしまったのだと教えてくれたのだそうだ。
今から思うと、オヤッさんは重度のアルコール依存症で、食べ物をもう受けつけない体になっていたのかもしれない。
 
冬休み直前の昼下がり、校舎の窓からオレンジ色に染まる景色を眺めながら、悲しいというよりも不安そうな顔をしていたイマイ君。
オヤッさんの死に自分の将来の姿を見ていたのかもしれない。
 
受験やらナニやらで、高3の冬は誰でも不安な顔をしているものだけれど、イマイ君の不安は誰よりも深刻そうに思えた。
 
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